『チュウリップの幻術』

皆さまのところではチュウリップはまだ咲いているでしょうか。
五月のチュウリップといえばこの絵本です。

『チュウリップの幻術』(宮澤賢治/田原田鶴子/偕成社)

散文詩ですね。
要約できにくいです。
洋傘直し(こうもり)が農園に入っていきました。
そこで出会った園丁とチュウリップ畑の前で交歓し、 めくるめくる春の幻想を見ます。
小さな白いチュウリップから湧き上がる光の酒で祝杯し酩酊します。
「そして、そら、光が湧いているでしょう。
 おお、 湧きあがる、湧きあがる、花の盃をあふれてひろがり
 湧きあがり、ひろがりひろがり、もう青ぞらもひかりの 波で一ぱいです。
 山脈の雪も、光の中で機嫌よく空へ 笑っています。
 湧きます、湧きます。ふう、チュウリップの光の酒。
 どうです。チュウリップの光の酒。ほめて下さい。」
ありんこになって二人の会話を聞いているような気分です。
皆さまもどうぞこの農園に入って二人の会話に耳を すませてください。
きっときこえてきますよ。
田原田鶴子さんは湧き上がる春、光の明暗を鮮やかな 色彩で描き出しています。
賢治と同じ岩手県の出身との ことで、より光あふれる故郷の春を描いているのでは ないでしょうか。

疲れているときなどは宮沢賢治朗誦伴奏CDもいいですね。(朗読 澤口たまみ 演奏 石澤義男)
『チュウリップの幻術』も収録されています。
読むという負担がないので、すっと入っていけます。
たまみさまの朗読と石澤さまのベースが響き合って 快いです。
春の輝く園、鮮やかな光が広がります。
いつの間にか私も洋傘直しと園丁の間に入って光の酒で 祝杯し酔っている気分になっています。
すっかり『チュウリップの幻術』にかかっていました。 お薦めです。

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絵本専門店グリム
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