『HOME』

最近、近隣で夏祭りの花火があった。
ベランダから見ていると、家々の灯りがこぼれ、団らんも聞こえてくるようだった。

『HOME』《作 林廉恩(リンリェンエン)/訳一青窈(ひととよう)/工学図書》

一羽の赤い鳥がぼくたちのお家がある家々の上を飛んでいる。
お父さんの運転する青いトラックで毎日お出かけ。
赤い鳥も一緒についてくる。
ぼくたちも赤い鳥も最後になって「ああ、そういうことなのね」と心温かくなる。
子どもを学校に送ると、渋滞している道を通りガタコン ガタコン。 
大きな川を渡って、山路もガタコン ガタコン。
海辺の町を通り抜け 田園風景が広がる。
野菜を収穫し、市場へひと仕事。
帰り道もガタコン ガタコン。
赤い鳥もぼくもみんな始まりの場所へ・・・

絵はダンボールやチラシ、新聞などを使ったコラージュで見ごたえがあり、一つ一つ見入ってしまう。
また上から見ているような景色は広がりと奥ゆきを感じる。
数字や記号なども見えて面白い。
街並み、生活の一コマ一コマから息づかいをも感じる。
会話も聞こえてくるようだ。
文章はリズミカルでテンポがいいので声に出して読みたくなる。
文字が少ないだけに読者は自由に想像していつの間にか自身を重ねてしまう。
終わり方も素敵で私も混ざりたくなった。
振り返ってみると私は何回も転居している。
でも帰るべきHOMEはいつでも温かった。
今は心のHOMEがいつでも迎え入れてくれるけれど。

作者は台湾で生れ育っています。
実は、私は戦争中台湾で生まれました。
でも余りにも幼かったので記憶としてはありません。
夕やけに山なみがシルエットのように映え、美しい街だったと聞いています。
母が亡くなり、遺影を持ってその街を訪ねたときには工業団地になっていました。
入り口には警備員が立っていて、見る影もありませんでした。
それでも目をつぶると温かなHOMEが立ち上がり、満たされた気持ちになります。
皆さまのHOMEはいかがでしょうか。

☆2021年ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞(フィクション部門)大賞受賞☆台湾発 世界が注目する話題の絵本歌手・一青窈、初めての絵本翻訳!

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絵本専門店グリム
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ロングセラーの絵本、昔話絵本、赤ちゃん絵本などを取り揃えています。蔵書数はおよそ3500冊。長年、絵本専門店を営んできた店主が思い入れのある本をセレクトしています。

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