『おつきさまひとつずつ』
今夜は十三夜くっきり輝いています。
家々や樹々が光り、影さえやさしく漂っています。
子どもの頃、母と銭湯にいった。銭湯から出るとお月さまがぽっかり浮いていた。
嬉しくなって走った。
下駄の音がカタコトカタコトと響いた。
お月さまがついてきた。
カタコトとまた走る。
母に“ねぇ、どうしてお月さま ついてくるの”と聞いた。
“きっと、すまちゃんが転ばないように照らしてくれているのよ”と。
以来、ふと空を見上げてしまう。
見えなくてもお月さまが見守ってくれているような気がした。
お月さまを見ると、そんな情景が浮かび、母の声が聞こえてくる。
そのお月さまで心あたたまる素敵な絵本!
長野ヒデ子さんとお嬢さんの麻子さんとのエピソードから生まれたお話です。
長野麻子さんは『まんまん ぱっ!』『すっすっはっはっ こ・きゅ・う』の作者です。
『おつきさまひとつずつ』(長野ヒデ子/童心社)
小さいあこちゃんはおばあちゃんのうちからおかあさんと手をつないで帰ります。
「おかあさん、おつきさまがついてくるよ」
「そうよ。おつきさまは あこちゃんがだいすきだからよ」
「ねえ、おかあさん、アフリカにもおつきさまはある?」
「あるわよ」
「イギリスにもある?」
「あるわ」
「おつきさまはみーんなに ひとつずつあって、よかったね」あこちゃんは安心して、おうちにかえりました。
おつきさまもついてきましたよ。
色合いも優しく、夜の暗い色もみどり色で描かれ、親子をあたたかく包み込んでいます。
ともすると、「おつきさまはひとつしかない」と応えがちですが、あこちゃんのいうことをありのまま受け止められるおかあさん、なんと素敵なんでしょうか。
お月さまを見ながら、私も母のことばを思いおこしました。
お月さまは私が転ばないように照らしてくれたのですね。
投稿者プロフィール
- ロングセラーの絵本、昔話絵本、赤ちゃん絵本などを取り揃えています。蔵書数はおよそ3500冊。長年、絵本専門店を営んできた店主が思い入れのある本をセレクトしています。
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