『木箱の蝶』☆第38回日産童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞作品
☆第38回日産童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞作品
『木箱の蝶』
(作・藪口莉那/絵・横須賀香/BL出版)
お父さんの部屋から、ハタリと音がした。
やわらかい葉っぱが風にひるがえるようなかすかな音。
ひっそりと静かな部屋で金魚のイチ子がポクリと泡をはいた。
ぼくは小さな木箱を見つけます。
ふたに手をかけようとしたとき、お父さんが入ってきて、「子どものころ大すきだった蝶の羽を大切にしまっているんだ」といいます。
その夜、ぼくは夢を見た。
夕やけ色の蝶が木箱をすりぬけてゆらゆらと羽ばたいて窓の外をさびしそうにみつめている。
次の日、ぼくは画用紙で沢山の蝶をきりぬいた。
お父さんに「ひとりきりでさびしいと思うんだ。だから、ぼくがなかまを作るんだよ」と。
ふたりでパレットの上で絵の具を何度もまぜあわせて白い紙に塗っていくと、その蝶たちはやがて・・・
木箱の中の一枚の羽が途轍もない物語りを紡ぐ。
それは余りにも静かで色鮮やかな美しい世界。
クライマックスはホウっとため息がでた。
ハタリとポクリの擬声語も効果的でほかには音一つない空間を感じる。
ぼくとお父さんの蝶への思いや優しさがまっすぐ入ってきて、切ないほどだ。
裏表紙でホッとさせられた。
疑似体験できたような錯覚は子どもの心の原風景とどこかで重なりあったのかもしれない。
夕やけのきれいな日、ふっと空を見あげてしまった。
※作者の藪口莉那さんは当店で昨年6月18日に開催した「あなたがうまれたとき」(くさかみなこ作/横須賀香絵)トークイベント時に横須賀香さんに会いに来られた。
そのご縁もあってご紹介させていただきました。
投稿者プロフィール
- ロングセラーの絵本、昔話絵本、赤ちゃん絵本などを取り揃えています。蔵書数はおよそ3500冊。長年、絵本専門店を営んできた店主が思い入れのある本をセレクトしています。
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